トップページ > くらし資料 > 2008年1月 「社会保障の財源を考える」


 日本共産党は2008年1月、
しんぶん「赤旗」紙上で「社会保障の財源を考える」
と特集し連載しました。
その記事を全文を下記に掲載いたします。




社会保障の財源を考える


 福田康夫首相が1月18日の施政方針演説で消費税増税について「早期に実現を図る」と表明するなど、政府・与党、財界に商業メディアまで加わって、社会保障財源を確保するためには消費税増税しかないような大合唱です。
  日本共産党は、消費税増税に頼らなくても、社会保障の財源をつくることは可能だと考えています。
  国民のみなさんの疑問に答えながら、日本共産党の財源についての考え方を紹介していきます。



共産党は財源どう考える?

 社会保障についての日本共産党の財源論のポイントは、国民の立場に立って浪費を一掃しつつ、(1)ゆきすぎた大企業と大資産家に対する減税(2)年間五兆円にのぼる軍事費―という「二つの聖域」にメスを入れるというものです。

 まず、前提の話から考えていきましょう。

医療・福祉は低水準
 消費税増税派の言い分は、“このままでは財政的に社会保障の水準を維持するのが大変だ”というものです。では、日本の社会保障の水準は、それほど高いのでしょうか。

 日本の社会保障給付費は対国内総生産(GDP)比でみると17・5%程度で、ドイツ、フランス、スウェーデンなどと比べると、10ポイント以上も低い水準です。

 グラフ(1)を見てください。これは、経済協力開発機構(OECD)のホームページに掲載されている国民経済計算のデータで、政府支出の対GDP比を試算したものです。ここでいう政府とは「一般政府」といって、主に税財源で賄われている国や地方自治体の財政と、社会保険料を財源としている「社会保障基金」を合わせたものです。

 国民経済計算では、政府支出を「一般公共サービス」「防衛」「経済業務」「保健」「教育」「社会保護」など十分野の目的別に分類しています。このうち、主に医療などが該当する「保健」と、年金などが含まれる「社会保護」との合計額を「社会保障」として計算しました。社会福祉施設の整備費なども入るので、「社会保障給付費」よりは多少大きくなりますが、それでも日本は20%に達していません。ヨーロッパに比べると低さが目立ちます。


大企業に応分負担
 では、日本の水準はなぜ低いのでしょうか。グラフ(2)は、同じOECDのデータから政府収入の対GDP比を試算したものです。政府の主な収入は、どの国でも税と社会保険料です。日本は、そのどちらもヨーロッパに比べると少なくなっています。

 このグラフを見ると、日本の社会保障財源が少ない原因として、二つのことが分かります。

 一つは、経済全体に占める政府の支出規模が小さいことです。アメリカに比べれば多少大きくなっていますが、ヨーロッパに比べると、はるかに「小さい政府」となっています。「高福祉・高負担」といわれる北欧諸国のレベルまで政府支出を引き上げるかどうかは別としても、イギリスやドイツなどと同程度に政府支出を引き上げることは、日本の経済力からみて十分に可能です。

 政府の支出規模を拡大するためには、税や社会保険料などの収入を増やす必要があります。税については、小泉内閣以降、庶民向けには定率減税の廃止や高齢者への増税、配偶者特別控除の廃止など、総額で五兆円以上の増税が行われてきました。その一方で、大企業や大資産家向けには減税が繰り返されてきました(表参照)。このため、いくら増税をしても税収はあまり増えていません。こうした大企業や大資産家への減税を改め、負担能力に応じた税負担を求めていくことが、何よりも重要です。

 社会保険料についても増収をはかることが必要ですが、庶民の負担が増えすぎないようにする配慮が必要です。現在は一定額で頭打ちとなっている高額所得者の社会保険料負担の上限を見直すとか、労使折半になっている保険料の負担割合を見直すことも必要でしょう。





歳出のムダを削減
 もう一つは、政府支出の中での配分の問題です。アメリカは軍事費が大きいことが社会保障を圧迫していますが、日本では公共事業などに支出が偏っていることが社会保障を圧迫しています。軍事費についても、対GDP比では欧米より少ないといっても、毎年五兆円近い規模は、決して少ないものではありません。こうした歳出のムダの削減が重要です。


大企業の応分の負担とは?

 社会保障の財源を確保するうえで、大企業に、その負担能力に応じた税負担を求めることが必要です。ところが、財界などは「税が増えたら企業の経営が苦しくなる」といって、これに反対しています。大企業には税負担の能力がないのでしょうか。

 図は、財務省の法人企業統計調査のデータをもとにして、資本金十億円以上の大企業(金融・保険業は除く)の経常利益と税負担の推移をグラフにしたものです。これを見ればわかるように、二〇〇六年度の大企業の経常利益は三十二・八兆円と史上最高を更新し、バブル期のピークであった一九九〇年度の十八・八兆円の一・七四倍に達しています。ところが税負担の方は十三・九兆円から十三・七兆円と、ほぼ同水準にとどまっています。

 個々の大企業を見ても同様です。たとえば、トヨタ自動車の場合は、〇六年度の経常利益は一兆五千五百五十二億円で、バブル期のピーク(七千三百三十八億円)の二倍以上ですが、税負担は四千七百八十二億円から四千七百四十六億円と、ほとんど横ばいです。

 この主な原因は、三つあります。一つは、この間に法人税の税率が大幅に引き下げられたことです。八〇年代には最高で40―43・3%だった法人税率が、九〇年度には37・5%、九八年度には34・5%、九九年度以降は30%となりました。トヨタ自動車の場合、税率引き下げによる減税効果は約二千億円です。

 二つめは、〇二年度からの連結納税制度の導入、〇三年度に大幅に拡充された研究開発減税など、新たな大企業減税が追加されたことです。研究開発減税は、トヨタ一社だけでも七百六十億円(〇六年度)です。

 三つめは、大企業が多国籍企業化や企業再編を行う中で、以前からあった配当益金不算入制度や外国税額控除制度などの大企業優遇税制の効果が大きくなっていることです。海外展開している企業ほど減税効果は大きく、トヨタの場合だと九百億円程度になると推計されます。

 日本共産党の試算では、法人税の税率をバブル期の九〇年度の税率である37・5%に戻せば、地方税分も含めて、大企業だけで約四兆円の増税になります。研究開発減税などの優遇税制を廃止・縮小すれば、さらに一兆―二兆円の増税になりますが、あわせても五兆―六兆円程度です。バブル期に比べて十五兆円も経常利益が増えているのですから、その一部を税にあてるということにすぎず、けっして無理な負担を求めているわけではありません。
(写真)東京モーターショーでのトヨタ自動車のブース
=07年10月25日、千葉・幕張メッセ


大企業が海外に逃げてしまう?

 「大企業にこれ以上の負担を求めると、国際競争力が落ち、海外に逃げてしまうのでは?」という質問が出されます。この点について、考えてみましょう。

 確かに、大企業が海外進出を進めているのは事実です。しかし、その主な理由は税金の問題ではありません。

 二〇〇七年九月に、経済産業省が実施した委託調査「公的負担と企業行動に関するアンケート調査」の中間結果が公表されました。経済産業省は、財界の意向を受けて法人課税の引き下げを要求しており、この調査も、減税の必要性を証明しようという意図に沿ったものであり、回答企業も主には大企業です。しかし、この調査結果でも、“税金をまけてやれば競争力が増す”などという単純な議論が成り立たないことが分かります。

 たとえば、海外進出を計画している企業に、その理由を聞いた設問に対する回答では、「労働コスト」「海外市場の将来性」などが上位で、「税負担」は五番目にすぎませんでした。

 また、海外進出している企業に「法人実効税率が30%程度まで引き下げられた場合、国内回帰を検討するか」との設問に対しては、「国内回帰を検討する」とした企業は17・8%にすぎず、大多数は「検討しない」と回答しています。

 さらに、「法人所得課税等の企業負担が重い」と回答した企業に対して「負担の引き下げが行われた場合のメリットは?」と聞いた設問には、「国際競争力の強化」という回答も半数程度ありましたが、圧倒的に多いのは「税引後利益の増大による企業価値や株価上昇」という回答でした。ここには、「税負担の軽減」を求める大企業の本音が表れています。

 いま、アメリカ流の「株主資本主義」「株価資本主義」の風潮が広がり、大企業の経営者の中に短期的な業績向上による株価上昇ばかりを追い求める傾向が強まっています。短期間で利益を増やす方法の一つはリストラによるコスト削減であり、もう一つは企業減税です。

 リストラによって短期的には利益が上昇しても、技術を持った労働者がいなくなってしまうことによって、将来の競争力が維持できるかが心配されています。本当に国際競争力を心配するのであれば、こうした問題にこそ目を向けるべきです。大企業のいいなりで減税をしても、短期的な株価上昇にはつながっても、国際競争力が向上する保障はありません。


欧米に比べて企業の負担は?

 日本経団連など財界は、“日本の企業の負担は外国に比べて重い”と宣伝しています。実際にはどうでしょうか。

 日本では、地方税を含めた法人課税の実効税率は39・54%となっています。これは、アメリカ(カリフォルニアで40・75%、ニューヨーク市では45・95%)に比べれば、けっして高いとはいえません。ドイツ(二〇〇七年までは38・65%、〇八年からは29・83%)、フランス(33・33%)、イギリス(〇七年度まで30%、〇八年度から28%)などと比べれば「高い」という議論もありますが、課税ベースの違いなどもあり、税率だけで単純な比較はできません。








国際家電見本市で展示された各社の薄型テレビ

 また、大企業の場合には、研究開発減税などの優遇税制があるために、実質的な税率は、もっと低くなっていることも考慮しなければなりません。

 さらに、企業の公的負担を比較する場合には、税だけでなく社会保険料などの負担も考える必要があります。ヨーロッパの場合は、日本に比べて社会保険料の負担が高くなっています。

 財務省が〇七年十月に政府税制調査会に提出した資料によれば、社会保険料を含めた法人負担を日本と欧米主要国とで比較した場合、日本は「金融(銀行)業」では五カ国中二位ですが、「自動車製造業」「エレクトロニクス製造業」では三位、「情報サービス業」では四位となっており、けっして負担が高いということはありません。

 アメリカの企業負担が低いのは、公的な医療保険制度がないからです。しかし、自動車製造業などを中心に、従業員が加入している民間医療保険の保険料を企業が負担している場合が多く、この保険料負担を含めれば、日本よりアメリカの方の負担が高くなる可能性もあります。

 「負担が高いと企業が海外に逃げていく」という議論が正しいとすれば、日本の大企業がアメリカやヨーロッパに進出していることの説明がつきません。「海外に逃げる」というのは、減税の口実をつくるための国民への脅かしにすぎません。




法人税率上げたら中小企業も困る?


 「法人税を引き上げたら、中小企業も増税になって困るのではないでしょうか」という疑問について考えましょう。

 いま、大企業はバブル期を大きく上回る史上最高の利益をあげていますが、中小企業の経営は大変苦しい状況です。財務省の法人企業統計調査のデータを見ても、大企業(資本金十億円以上)の二〇〇六年度の経常利益はバブル期のピーク(一九九〇年度)の一・七倍以上ですが、中小企業(資本金一億円未満)の経常利益はバブル期のピーク(八九年度)の84%に落ち込んでいます。中小企業の倒産件数も、最近増加してきています。法人税の増税を考えるときにも、こうした中小企業への配慮は当然必要です。

 現在、法人税の基本税率は30%ですが、資本金一億円未満の小規模企業については、年間所得のうち八百万円以下の部分については、22%の軽減税率が適用されています。基本税率が37・5%だった十年前には、軽減税率も28%と、今より高くなっていました。地方税の法人事業税にも軽減税率がありますが、これも同様です。

 かりに、大企業だけでなく、軽減税率分を含めて、全企業の税率を国税・地方税とも十年前の水準に戻したとすれば、七兆円近い増税になります。この内訳を資本金別に試算すると、おおざっぱにいって、資本金十億円以上の大企業が四兆円、資本金一億円未満の小規模企業が二兆円、資本金一億―十億円の中堅企業が一兆円という割合です。

 したがって、大企業に限定して税率を元に戻したとしても、国・地方あわせて四兆円の財源が生まれます。大企業以外の負担が増えすぎないように配慮したとしても、社会保障のために相当の財源を確保することが可能です。

 たとえば、年間所得八百万円までの中小企業の軽減税率は引き上げずに据え置きます。国税庁の統計(〇五年分法人税)によれば、資本金一億円未満の法人企業二百五十四万社のうち、百七十一万社は赤字で、黒字の八十三万社のうち六十五万社は所得一千万円未満です。したがって、軽減税率を据え置けば中小企業の九割以上は増税になりません。

 年間所得八百万円超の部分についても、一律に税率を引き上げたりせず、中堅企業を含めて所得に応じた段階税率を設けるなどの工夫をすれば、負担軽減をはかれます。このように、負担能力に応じた負担にしていくことが必要です。






大企業への優遇税制とは?(その1)

 大企業には、税率引き下げのほかに、さまざまな優遇税制が適用されています。どんな優遇がされているのでしょうか。二回にわたって、見ていきましょう。

 まず、「研究開発減税」です。これは、研究開発に多額の資金を使う大企業の法人税を減額するものです。二〇〇二年度以前は、研究費の増加分に応じて減税する仕組みでしたが、〇三年度からは研究費の総額に応じて減税する仕組みに変わり、減税額が大幅に増えました。

 現在の仕組みは、図のようになっています。かりに、年間売り上げ一千億円の企業があり、原材料に五百億円、人件費に二百億円、研究費に百二十億円を使ったとすると、これらのコストの合計八百二十億円を売り上げから引いて、百八十億円の利益が生じます。法人税率が30%ですから、法人税は五十四億円になります。

 ここから、さらに研究費の額に応じて法人税を減額するのが「研究開発減税」です。研究費が売り上げ(正確には、当期および前三年の平均売り上げ)の10%以上の場合は研究費総額の10%、売り上げの10%未満の場合には、その割合に応じて研究費総額の8―10%を、法人税から控除します。この図の場合は、研究費が売り上げの12%となり10%を超えているので、研究費総額の10%、つまり十二億円の減税という計算になります。しかし、「減税額はもとの法人税額の20%まで」という上限があるために、実際の減税額は五十四億円の20%で十・八億円となります。

 〇六年度からは、以上に加えて、「研究費増加額の5%」(A)を追加して控除できるようになりましたが、「法人税額の20%」という上限は変わらなかったため、図の企業の場合には減税額は増えません。

 〇八年度の「税制改正」では、さらに、「研究費が売り上げの10%を超えている場合」(B)に追加の減税ができるようになります(Aとの選択制)。そのうえ、このAまたはBの分は、研究費総額に係る控除とは別枠で、「法人税額の10%」が上限とされます。これによって、最高で法人税額の30%まで控除が可能になります。税率30%の法人税を、さらに30%減額したら、税率が21%に下がったのと同じです。これは中小企業の軽減税率(22%)より低い税率です。

 研究開発減税の総額は年間約六千億円。政府は「中小企業にも適用される」(福田首相の国会答弁)などといい訳していますが、国税庁の統計では中小企業の減税額は全体の5%にすぎません。実際に恩恵を受けているのは、自動車、電機、製薬などの大企業です。表のように、上位二十社だけで減税額の四割以上を占めています。






大企業への優遇税制とは?(その2)

 二〇〇二年度には、「連結納税制度」が導入されました。



 ある企業Aが、国内の他の企業B、C、Dの株式を100%保有している場合、B―Dは、Aの「100%子会社」であるといいます。通常の法人税の計算は、親会社、子会社とも、それぞれの会社ごとに利益を計算し、税率をかけて法人税額を計算します。かりに、図のように、子会社のうちにいくつか赤字企業があると、赤字企業の法人税額はゼロですから、グループ全体としての法人税額は、黒字企業の利益に税率をかけた額になります。図の場合は(一千億円+百億円)×30%=三百三十億円です。

 連結納税制度を導入すると、グループ企業の利益と損失を合算して、それに税率をかけて法人税額を計算します。すると、黒字企業の利益と赤字企業の損失が相殺されるため、税額が減ることになります。図の場合だと、利益の合計が一千百億円、損失の合計が五百億円で、差し引きで課税所得が六百億円になり、法人税額は六百億円×30%=百八十億円となります。連結納税を適用しない場合と比べると、百五十億円も減税になりました。

 連結納税を適用するかしないかは、企業が選択できます。〇二年度の導入当初は適用企業が少なかったのですが、その後、年々増えており、減税額も増えてきています。

 「配当益金不算入」は、国内企業からの配当については、税の計算上、半分しか利益に算入しないというものです。さらに、発行済み株式の25%以上を保有する関係会社からの配当については、全額益金不算入となります。

 その企業が外国で法人税に相当する税を納税した場合や、外国で税を納めた外国子会社から配当を受けた場合は、国内で計算した法人税額から、外国で納めた税額を引くことができます。これは「外国税額控除」といいます。相手国によっては、その国で税の減免を受け実際には納税していないのに、納税したものとみなして税額控除する「みなし税額控除」が適用できる場合もあります。

 「配当益金不算入」と「外国税額控除」は、どちらもずっと以前からある制度ですが、「持ち株会社」が解禁され、大企業の組織再編が活発化したり、海外進出がさかんになったりする中で、これらの制度による減税額が増加しています。

 このほか、各種の税額控除制度、準備金制度、特別償却などの減税措置が、「租税特別措置法」という法律で定められています。




大企業のもうけ どこに行った?

 大企業は史上空前の利益を上げているのに、税金は減税されています。そのもうけは、どこに行ってしまったのでしょう。

 財務省の「法人企業統計調査」によると、資本金十億円以上の大企業は、一九九〇年度から二〇〇六年度までの十六年間に経常利益を一・七五倍に増やしています。しかし、売上高は一・一五倍にすぎません。その利益は、売り上げを増やすよりもリストラによるコスト削減によって生み出されています。このため、利益が大幅に増えているのに、従業員の給与はわずかしか増えていません。

 一方、役員の給与は一・三九倍に、利益から配分される役員賞与は五・四三倍に急増しています。大企業の役員は、社員にはリストラを押しつけながら、自分たちの報酬は増やしているのです。



 さらに大きく増えているのが、株主への配当金です。配当金はこの間に四・一七倍、金額にして九兆円も増えています。とくに、〇三年度に証券優遇税制が導入されて、配当に対する減税が実施されてから、配当額が急増しています。〇二年度から〇六年度の四年間だけで、八兆円近くも増えました。

 結局、大もうけしたうえに税金まで安くしてもらい、その結果生まれた利益は、株主と役員が山分けしてしまったのです。

 さらに、この配当がどこに流れたのかを調べてみましょう。大企業の配当金は、最近の四―五年だけでも三倍前後に増えていますが、その多くは、国内の株主ではなくて、いわゆる「外国人株主」に流れているのです。図は、配当金が百億円を超える企業の上位百社について集計したものですが、〇二年度から〇六年度の四年間で、国内の個人株主への配当は二千五百億円しか増えていないのに、外国法人等への配当は九千五百億円も増えています。

 いくら大企業が空前の利益をあげても、従業員の給与は増えない、税金もまともに払わない、配当金は増やしても、その多くが外国に流れてしまう―これでは、国内の景気がよくなるはずがありません。これまで政府は、“企業が利益をあげれば家計にも波及する”と説明してきましたが、最近ではそれすらいえなくなってきています。

 大企業にもうけ相応の税負担を求め、それによって社会保障の拡充をはかることは、こうしたゆがんだ経済構造をあらためて、健全な経済発展の道を開くためにも必要なことです。





「大資産家」とはどんな人?

 「預金を一千万円持っていますが、私も『資産家』ということになるのでしょうか?」という質問が寄せられています。

 「大資産家への優遇税制を改める」という場合の「大資産家」というのは、どのような人を想定しているのでしょうか。

 退職金をもらったり、老後のために貯蓄したりして、数千万円程度の金融資産を持っている人は少なくありません。これらは「資産」には違いないとしても、とても「大資産家」とはいえません。これらの人に株式の配当や譲渡所得が数十万円程度あったとしても、証券優遇税制の恩恵は数万円にすぎません。

 一方、株式などの金融資産の配当だけで一千万円以上の所得があれば、かなり裕福な暮らしができそうです。また、証券優遇税制の恩恵も数十万円規模になってきます。この程度の層については、「資産家優遇税制の恩恵を受けている」と考えることができそうです。しかし、一千万円の配当を得るためには、5%の高い利回りを前提にしても、二億円以上の金融資産を保有していなければなりません。

 国税庁の統計によれば、株式などの配当所得を申告している人は毎年、三十万人以上います。その中で、一千万円以上の配当所得のある人は一万―二万人程度しかいません。国民全体からみれば、数千人に一人ぐらいです。

 株式の譲渡所得が一千万円以上ある人も、申告納税者では三万人前後です。この場合は、配当と違って、毎年決まって譲渡所得があるわけではありません。数十年も保有していた株式を売って、一生に一度だけ一千万円の譲渡所得を得るような場合も含まれていますから、全部を「大資産家」というわけにはいきません。

 いずれにせよ、改めるべき「大資産家優遇税制」の対象は、せいぜい数万人から十数万人ということになるでしょう。

 同様に、税制上優遇されている「高額所得者」という場合は、所得税の最高税率の引き下げで恩恵を受けた層と考えればいいでしょう。

 一九九九年に最高税率が引き下げられる前は、所得税の最高税率が適用されていたのは、課税所得(各種控除を引いた後の所得)が三千万円超の人でした。これは、給与にすれば年間三千六百万円程度以上です。現在の最高税率が適用されるのは、課税所得が一千八百万円超、給与だと二千三百万円ぐらいです。

 国税庁の統計によれば、民間サラリーマン(役員を含む)で給与が二千五百万円以上の人は、約十一万人となっています。これは、サラリーマン四百人に一人の割合です。ちなみに、資本金十億円以上の大企業の役員の平均報酬(給与+賞与)額は、二〇〇五年度で二千八百万円となっています。


「大資産家」への優遇税制とは?

 前回、「大資産家」とか「高額所得者」とかいうのが、どんな人たちかを考えました。では、そういう人たちへの優遇税制とは、どんな内容になっているのでしょうか。

 一つは、所得税や住民税の最高税率が引き下げられてきたことです。一九七〇―八〇年代には、所得税の最高税率が75%という時期もありました。住民税の最高税率が18%で、あわせると93%でした。これが段階的に引き下げられ、八九年からは所得税50%、住民税15%で、あわせて65%になりました。さらに九九年には所得税37%、住民税13%、あわせて50%にまで引き下げられました。二〇〇七年に税源移譲によって所得税40%、住民税10%になりましたが、あわせて50%は変わっていません。

 九九年の税率引き下げだけで、課税所得一億円の場合には、所得税・住民税あわせて一千百万円以上の減税になっています。最高税率を九八年当時の水準に戻せば、全体で約五千億円の財源がつくれます。



 もう一つは、不動産や株取引などの資産性の所得に対する税の軽減措置です。土地や株の売買などによって生じた所得は、他の所得とは区分して税額を計算する仕組みがつくられています。このため、すべての所得を合算して税額を計算した場合に比べて、はるかに低い税額ですむことになります。

 最近は、バブル期のような土地売買による所得は減っていますが、株取引による所得は増えています。〇三年に導入された証券優遇税制は、株式配当や株式譲渡益に対する税率を、所得税・住民税あわせて10%にまで軽減しました。20%で課税した場合と比べても、一兆円もの巨額の減税になっています。証券税制については、次回に詳しく説明します。

 最後に、相続税の減税です。相続税の最高税率は、〇二年までは70%だったのが、〇三年から50%に下げられました。「70%」というと、かなり高く思われますが、これが適用されていたのは「各法定相続人の取得金額が二十億円超」の場合です。かりに相続人が三人いれば、相続財産の総額が六十億円超の場合です。国税庁の統計データによれば、こんな巨額の相続は年間二十件前後しかありません。まさに、一握りの大資産家への減税です。





証券優遇税制はなくなるの?

 「金持ち優遇」と批判の強かった「証券優遇税制」ですが、政府は二〇〇八年度の「税制改正」で、優遇税制を「原則廃止する」としています。「金持ち優遇」はなくなるのでしょうか。

 証券優遇税制が導入されたのは〇三年です。それ以前は、株式配当については他の所得と合算して総合課税したうえで、「配当控除」(所得税は配当額の5―10%、住民税は1・4―2・8%)を税額控除する仕組みでした。総合課税ですから、最高税率が適用される高額所得者では、配当控除を含めても40%以上の税率になりました。株式譲渡所得については、申告分離課税で所得税20%、住民税6%、あわせて26%の税率でした。

 〇三年からは、上場株式の配当と株式譲渡所得については、所得税・住民税あわせて10%の税金だけですむことになりました。〇七年までの五年間の措置でしたが、与党が一年延長したため、〇八年まで軽減税率が続きます。政府は、〇八年度の「税制改正」で、この優遇措置を、限度額(配当は年百万円、譲渡所得は年五百万円まで)を設けて〇九、一〇年も続け、一一年以降は税率20%にするとしています。

 税率10%というのは、欧米各国と比べても異常な優遇税制でした。たとえば、アメリカでは配当も譲渡所得も総合課税が原則です。税率の軽減措置はありますが、国税だけで15%、地方税を含めれば22―25%程度です。一億円の所得に対する税額は、欧米の半分以下の水準です(グラフ参照)。このような優遇税制を廃止するのは当然です。

 〇九年以降は少額の場合を除いては税率が20%になりますが、それでも〇二年以前に比べれば減税が続きます。たとえば、年間配当が一億円の場合は、証券優遇税制のもとでは一千万円の税金で済んでいたのが、優遇税制の廃止で二千万円になりますが、それでも〇二年以前に比べれば約二千万円の減税です。

 さらに政府は〇九年から、株式譲渡損失と配当所得との間の損益通算制度を創設しようとしています。過去三年以内に譲渡損失がある場合には、その分を配当所得から差し引いて、税額を減らすことができます。購入時より値下がりしている株式を保有している場合、それを切り売りして損失を計上することによって、配当にかかる税金がゼロになるよう調節することも可能になります。これは大資産家に新たな「節税」の手段を与えるものです。





増税すると「働く意欲」は?

 「大金持ち優遇はやめろ」と所得税を取りすぎると、「働く意欲がなくなるのでは?」という意見があります。どう考えたらいいのでしょうか。

 二〇〇五年の六月に出された政府税調の「個人所得課税に関する論点整理」は、定率減税廃止などの大増税を盛り込み、「サラリーマン増税」と批判されました。この報告を準備した政府税調の総会で、「庶民にだけ増税を押しつけてはバランスがとれないから、所得税の最高税率を引き上げては」という意見が何人もの委員から出されました。ところが、企業経営者出身の委員が「人間、働きがいということを考えると、50%取るのが限度だろう」と発言し、財務省の役人も「五公五民以上は出ないというのが大きな流れではないか」などといって、引き上げの意見に反論しています。結局、報告には「個人住民税とあわせて50%という現在の水準は、個人の勤労意欲・事業意欲の点から見て基本的に妥当なものと考えられる」という文章が盛り込まれたのです。

 しかし、これはとんでもない議論です。「五公五民」というのは、江戸時代に農民に課せられた過酷な年貢の取り立ての話です。現在でも、一般庶民に50%課税するというのなら重税ですが、大資産家は話が違います。かつて日本では最高税率が所得税で75%、住民税で18%という時期もありましたが、大資産家が事業意欲をなくすこともなく、日本は高度成長を続けてきました。

 そもそも、「税率50%」といっても、収入のすべてに50%がかかるわけではありません。実際の負担率は、社会保険料の負担を含めても、年収三千万円で34・4%、年収一億円でも43・6%です。これを多少引き上げたとしても、「やる気を失う」とはいえません。しかも、大資産家の場合は給与収入より配当や株式譲渡などの所得の方が多いのが普通です。株のもうけには10%、優遇税制がなくなっても20%しか税負担がありません。これは年収千二百万円くらいのサラリーマンの負担率より低くなっています。これでは、サラリーマンの方が「働く意欲」を失って、仕事中にパソコンで株取引をし出したりするのではないでしょうか。

 アメリカの雑誌が毎年、「日本のビリオネア(十億ドル以上の資産を持つ大資産家)」を発表しています。これを見ると、まともな会社の経営者もいますが、サラ金など国民の幸福にはあまり貢献していない業界が目立ちます。かりに、こういう大資産家の税を増やして「やる気を失った」としても、国民の暮らしにとっても、日本経済にとっても、ほとんどマイナスにはならないのではないでしょうか。








軍事費が「聖域」とは?

 日本共産党は、大企業などへの優遇税制とならんで、軍事費がもう一つの「聖域」とされていると指摘しています。これはどういうことでしょうか。

 日本の軍事費は、対GDP(国内総生産)比では1%程度なので、アメリカなどに比べれば低くなっています。しかし、憲法九条で戦争を放棄し、「戦力は、これを保持しない」と定めている国としては、異常に過大なものとなっています。

 消費税が導入された一九八九年度ごろは、軍事費は毎年急増していました。イラク戦争開始後はアメリカなどの軍事費が増えているものの、九一年のソ連崩壊後、九〇年代には、欧米諸国は軍事費を軒並み減らしました。ところが、日本の軍事費は九〇年代半ばまで増加を続けたのです。

 九〇年代後半以降は横ばいとなっていますが、急増したまま「高止まり」しているという状況です。消費税導入以降の二十年間で、消費税増税前の八八年度と比べた増加分の累計は、二十一兆円に達しています(グラフ参照)。

 政府は「財政健全化のため」と、社会保障などの予算は毎年のように削り込む一方で、軍事費については例外扱いを続け、五兆円近い規模を維持してきました。

 たとえば、二〇〇二年度予算の編成にあたっては、社会保障関係費や人件費などの「義務的経費」を除く「一般政策経費」については前年度比10%削減とし、そのかわりに「環境」「都市再生」「IT(情報技術)国家づくり」など七分野の「構造改革特別予算枠」を設けました。ところが、当時の防衛庁は、「基地周辺の騒音対策は、環境対策」「災害時の救援活動の強化は都市再生」「自衛隊の情報通信機能強化はIT」など、こじつけのような予算要求を行い、全体で八千億円の「特別枠」のうち二千六百三十億円と、防衛庁がトップになってしまったのです。

 続く〇三年度予算では、「義務的経費は据え置き、裁量経費は2%削減」という予算編成方針でしたが、この年も軍事費は0・1%しか減りませんでした。自衛隊員の人件費だけでなく、過去に契約した装備品の支払いや、アメリカとの「特別協定」にもとづく「思いやり予算」など、四・三兆円以上が「義務的経費」扱いに変更されてしまったからです。

 いま政府は、〇六年の「骨太方針」にもとづいて、社会保障費の「自然増」を毎年二千二百億円削減するなど、歳出削減方針を掲げています。しかし、この「骨太方針」では、軍事費については「名目伸び率ゼロ以下」とする一方で、「米軍再編に要する経費については…必要な措置を講ずる」と別枠の予算計上の可能性を認め、経済情勢などによって「伸び率ゼロ」が難しい場合は、経済成長率程度までの伸びを認めることを追記しています。今後、米軍再編が本格化する中で、軍事費は削減されるどころか、大幅に増えていく可能性すらあるのです。